いまはまだ同僚
オーベルシュタイン編

 火急の事態だ。

 ミュッケンベルガー元帥府・参謀本部の自席に座り、各支部から送られてきたデータの数々を分析していたオーベルシュタイン大佐はそう結論づけた。

 その日、彼が確認していた膨大な量の報告たちは、いずれも単体では目立った異変を伝えておらず、常の「叛乱軍」との戦闘を伝えたり・物資の滞りが見られる等の状況を伝えたりする、なんら特筆すべき点のないものばかりである。
 現に、ミュッケンベルガー元帥の不在ゆえか、席にも着かず、猥談に花を咲かせている他の同僚たちは、これらの報告に目を通す必要性すら見出していない。

 だが、オーベルシュタインにとっては違った。現在の帝国軍艦隊の運用状況・その他の一見瑣末な情報を加味し、彼が分析するところによれば、間もなく、帝国軍の防衛線の間隙を突かれ、前線近くの駐屯支部と、そこで働く民間人の居住区が襲撃される。
 すぐに手を打たなければ、数百万は下らない数の兵士市民が命を落とすだろう。

 流れるように手慣れた動作でキーを叩き、データをグラフ化し、地点を図面へプロットし、予測と対策案を取りまとめ、あっという間に見事な資料を作成すると、元帥ならびに参謀メンバーへとオーベルシュタインは資料を送付した。
 これだけで皆が動いてくれれば楽なのだが、中々そうもいかない。ミュッケンベルガー元帥は、口頭で説明されるまで資料を読まない可能性が高いし、参謀本部のメンバーは、元帥から命令されなければ動かない。

 オーベルシュタインは、早速、ミュッケンベルガー元帥に目通りすべく、彼にヴィジホンを掛けた。───出ない。
 ディスプレイを切って立ち上がり、一瞬会話を止めて視線を向けてきた同僚たちに目もくれず、秘書官室へ向かう。ノックをする間も惜しみ、扉を開くと、茶菓子を食べながら雑誌を見る女性秘書官がいた。同僚たちに人気の見目麗しい元帥付き秘書官は、オーベルシュタインを見て慌てて菓子と雑誌を隠した。

「うわわっ! ──お、お疲れ様です、オーベルシュタイン大佐。これはその」
「元帥閣下へ至急連絡をとってもらいたい」
「は」
「緊急だ。いそぎ、連絡を取らねばならん」
「あ、は、はい。────ええと。本日は、たしか、ブラウンシュヴァイク公爵との会食があるとのことで、『何があっても連絡を寄越すな』と」
「火急の事態だ。多くの人命がかかっている」
「…で、ですが、私の判断で、元帥に逆らうのは…」
「………ならば用はない」

 常の淡々とした声でそう言うと、オーベルシュタインは踵を返して秘書官室を出て行った。

「ブラウンシュヴァイク公爵との会食だとのことで───」
「私の一存でお取り次ぎするわけには───」
「申し訳ありませんが───」
「気のせいだということも───」
「他の参謀の方々はなんと───」

 くだらん。何と無様な有様か。

 ミュッケンベルガー元帥へ連絡できそうな人物を思いつく限り当たり、1人、また1人と断られるたび、オーベルシュタインの帝国への失望は深まっていった。

 公爵との会食が数百万の、いや、たった1つの人命ほど重要か? 1人でいい、数多の人命が損なわれるのを防ぐべく、ほんの少しだけ元帥に逆らえる者はいないのか?
 思えば、いつもこうだ。
 能力ある者・志ある者が皆無とまでは言わない。だが、虫喰いの柱が辛うじて支えるあばら屋同然の帝国では、すべき事は成されず、できるはずの事もできない。最初は意欲的だった者も、摩耗され、いずれは他の者たちの一部に変わってしまう。

 オーベルシュタインの義眼が、参謀本部の窓の外、道路脇を歩く子供と、その子をみている母親との姿をとらえた。あまり高級そうでないが清潔な身なりをみるに、都市部へ観光にきた郊外住まいの平民親子らしい。
 光コンピュータから彼の脳へ送られるその親子の図が、彼の脳内にある懸念と結合し、戦火に焼かれ形を失う親子の図へ変化する。

 よかろう。私が、元帥に逆らう「1人」になればよい。
 それで殺されるというなら、それもよい。どちらにせよ、なすべきを成さず、言うべきを言わぬのならば、死んでいるのと何が違う。

 オーベルシュタインは、ふたたび秘書室へ向かって歩き始めた。

──────────

「ひっ! オーベルシュタイン大佐、お、お早いお戻りで…」
「元帥はいずこにおられる?」
「はい?」
「元帥の、居場所だ」
「え。ええと、その…確か、元帥のご自宅に、公爵閣下を招いての会食だったはず…ですので、今はご自宅で、公爵のお越しを待っておられるのではないでしょうか」
「結構。では、私も元帥のご自宅に伺うとしよう」
「えっ!? 駄目ですよ、大佐。今日は、何があっても…」
「『連絡を寄越すな』だろう。承知している」
「でしたら、」
「失礼する」

 まだ何か言おうとする秘書官を無視し、オーベルシュタインは秘書官室を後にした。

 ミュッケンベルガー元帥邸は、帝国有数の権力者に相応しい広さを誇る屋敷である。しかしながら、質実剛健を尊ぶ元帥の性格を反映してか、門閥貴族の屋敷のような趣味の悪い華美な装飾は施されていない。
 侵入者を入れまいとする鉄の門扉の前に車を停め、堂々と降り立ったオーベルシュタインは、彼を検分しにくる警備兵たちの元へ歩み寄っていった。

「失礼、大佐。ご所属とお名前と用件を伺えますか。恐れながら、本日当家は重要な会食の最中でして…」
「パウル・フォン・オーベルシュタイン大佐、ミュッケンベルガー元帥府幕僚。ブラウンシュヴァイク公爵閣下との会食があることを承知の上で、火急の事態につき、ミュッケンベルガー元帥へお目通りを願いたい」
「……それは…ええと…どのような事態で?」
「委細は言えぬが、数百万の人命にかかわる事態だ」
「……それは…しかし、何があっても他の用件を受け付けてはならぬと、元帥が」
「では、君は責任をとるのだな?」
「はい?」
「君が私を止めたせいで、数百万の人々が死ぬ。兵士だけではない。女も子供も含む一般の人々もまとめて、戦火に焼かれ、元の形の分からぬ赤黒い肉塊に変わり、無惨に死に絶える。その責を、君は負うのだな? 残された人々の怨嗟を背負う覚悟が、君にはあるのだな」
「……そ、それは」
「ないならば退け。それほど元帥が恐ろしければ、すべて私のせいにすればよい」

 一見、陰気で弱々しい印象の大佐が放つ覇気の強さに、警備兵がたじろくと、その一瞬のスキをついてオーベルシュタインは敷地の中へ滑り込んだ。他の警備兵たちの一部が彼を止めようとしたが、話を聞いていた別の一部が不安げに同僚を呼び止める。
 結果として、オーベルシュタインは警備兵の妨害を受けずに屋敷内へ入ることができた。

──────────

 丁重に再考を求め、制止しようとする使用人たちを無視し、以前、ミュッケンベルガー邸でのパーティに新任幕僚として招かれた記憶を頼りに、まっすぐ晩餐室へ向かう。
 記憶は正確だったらしく、ほどなくして晩餐室の重厚な扉が見えた。その横に、癖のある銀髪を持つ、見慣れない帝国軍人が立っていることに気付く。

 ミュッケンベルガー元帥府の者ではない。近接戦にも十分対応できそうな均整のとれた体躯を持ち、目は明るい翠色で、顔立ちも整っている。門閥貴族が好みそうな軍人だ。おそらく、ブラウンシュヴァイク公の護衛だろう。
 階級章を見ると、自分と同じ大佐であった。貴族の道楽のお守りに大佐をつけるとは、何たる人的資源の無駄遣いか。どこか面白そうに此方を見ている彼は、どうやら邪魔をする気はないらしい。
 今はそれだけで十分、と考え、オーベルシュタインは晩餐室の扉の前へと立った。

 片手を持ち上げ、重厚な木の扉をドン、ドン、ドン、ドン、と力強く4回叩く。正直、叩き壊してやりたい気分だ。

「ミュッケンベルガー元帥閣下、オーベルシュタイン大佐です。早急にお伝えせねばならない事がございます」

 しばらくすると、ミュッケンベルガー元帥のものと思しき足音がドスドスと響き渡った。勢いよく開くであろう扉にぶつからないよう、オーベルシュタインは少々あとずさった。
 ガチャン!と派手に音を立て、晩餐室の観音扉が開かれる。中では、怒り心頭の形相を浮かべたミュッケンベルガー元帥が立っていた。
 ようやく会えたか。元帥の巨体にも彼の形相にも恐れる様子を見せず、オーベルシュタインはただそれだけの感想を抱いた。

 彼は、自制心も持ち合わせてはいるが、それ以上に、感情が表出しにくい性質を持って生まれてきた人物である。それゆえ、幼い頃、彼の家のメイド・ラーベナルト夫人に贈り物を貰ったときにも、自分では喜んでいるつもりだったのだが「お気に召しませんでしたか」と悲しまれたことがある。
 しかし、この性質にもメリットがないわけではない。たとえば今、元帥に勝る形相を浮かべていてもおかしくない程に彼は怒りを煮え滾らせているのだが、傍から見れば無表情で直立しているのみである。

「きさま…オーベルシュタイン…今日は、ブラウンシュヴァイク公との会食だと…誰にも聞かなかったのか?」
「これまでに話した者それぞれから、合計で14度ほど伺いました。閣下」

 怒りをたっぷり含ませ吐かれた問いに淡々と答えてやると、元帥は「ほう…そうか…。それは、何よりだ…」と皮肉っぽく応じた。不遜な部下が震え上がることでも期待したのだろうか。
 オーベルシュタインも皮肉をたっぷり込めて応じることにした。

「ヴィジホンをお掛けしましたが繋がらず、取り次ぎの者も応じませんでしたため、直接お伺いしました。早急にお伝えせねばならないことがございます、閣下」
「あ・と・に・し・ろ」
「事は一刻を争います。多くの人命が懸かっているのです」
「何度も言わせるな。あとにしろ。命令だ。きさま自身の命を失いたいか?」

 無表情を保ったままのオーベルシュタインの心中で、マグマのように怒りが煮えたぎった。

 元帥、あなたまでそうなのか。あなたも帝国の腐敗の一部か。

 オーベルシュタインは、実を言うと、ミュッケンベルガー元帥に少なからず期待を抱いていた。
 彼は、昨今の帝国では極めて珍しいことに、実力をもって現在の地位まで上り詰めた人物である。過去のデータを分析しても、彼の幕僚となってから知った彼の働きぶりからみても、彼の実力と実績は本物であることがわかる。
 また、不正や腐敗を問題視し、正そうという意思もみられる。彼が不在であった今日こそ、元帥府の人間の怠惰が際立ったが、それも、彼が在席すれば話は別である。
 更に彼は、門閥貴族が支配する今の銀河帝国を、あまり良しとは思っていない。今日の会食とて、公爵を喜んで迎えているわけではあるまい。帝国のいち権力者として、必要があって仕方なくやっているのだろう。
 狂ったこの国を破壊し、あるべき制度と秩序をもって再構築するための、新たな帝王として彼を使えるのではないか、と考えていた。しかし、どうやら期待外れであったらしい。

 オーベルシュタインは、なかば演技めいて、なかば自暴自棄になりつつ答えた。

「今、私の話を聞いてくださるならば、その後、私の命を奪って構いません。助かる命の数を考えれば安いものです」

 やりたければやればいい。それならそれで、これ以上、この腐りきった国の行く末を案じる必要がなくなるというものだ。
 目が見えなかった私を匿い、義眼を与え、今日まで生き長らえさせてくれた家族と使用人たちには申し訳ないとは思う。だが、数多の人命が無為に失われることを防ぐために命を賭した結果ならば、義理は果たしたと言えるだろう。

 自分の答えを聞くと、ミュッケンベルガー元帥は、虚を突かれたような表情を浮かべ、まとっていた怒気を引かせた。言葉が出てこなくなったらしく、しばらく無言が続く。
 少なくとも、話を聞く気にはなったようだ。

「………貴官のなんと扱いにくいことか。…とにかく、今はだめだ。貴官の命と引き換えであってもな。ブラウンシュヴァイク公に、貴官が起こした騒ぎを詫び、公を丁重にもてなして帰さねばならん。その後、貴官の言う『早急にお伝えせねばならないこと』を聞いてやる」

 ここまでが限界か。まあ良い。会食と云う以上、長くともこれから2時間以上続くとは思えないし、私が騒ぎを起こしたので早々に切り上げることだろう。元帥が私の話を聞き、事の深刻さをご理解いただければ、あとはスムーズに対応を進められるはず。
 成果は上々、と考えるべきだな。

「承知いたしました」

 そう応じて頭を下げると、バタァン!と豪快に音を立てて扉は閉められた。顔を上げ、ブラウンシュヴァイク公の護衛と思しき者の横に並び、彼とともに晩餐会の終わりを待つ。

 すると、彼は声をかけてきた。

「オーベルシュタイン大佐、でしたか。アントン・フェルナー大佐です。本日は、ブラウンシュヴァイク公の護衛として伺っております」

 やはりそうか。平民の出で大佐とは珍しい。見栄えの良さと愛想のいい様子から察するに、どこぞの貴族と愛人の間に生まれた者かもしれない。
 しかし、愛人の子は、平民だ。貴族の道楽に引き回されている彼の様子からするに、貴族の血を彼が引いていたとしても、その恩恵はさほど受けられていないのだろう。

「パウル・フォン・オーベルシュタイン大佐、ミュッケンベルガー元帥府の幕僚を拝命しております」
「何です、『多くの人命が懸かっている』事態というのは」

 ふむ。今日はじめて、そのことに関心を持つ者に出会えた。

「機密ですので、申し上げられません」

 答えを聞いて、フェルナー大佐は落胆したような表情を浮かべた。
 正確には、大佐の地位にある軍人の彼にであれば伝えても問題ないのだが、ここは軍の施設ではない。ミュッケンベルガー元帥の私邸だ。一般人である使用人たちが何処で聞いているか分からない以上、うかつに話さぬほうが良いだろう。
 それに、聞いたところで、何も出来ない無力感に苛立ちを覚えるだけだ。今の私のように。ただでさえ、傲慢で無能な門閥貴族どもに振り回され、苛立ちを蓄えているに違いない彼に、これ以上の負荷をかけることもなかろう。

「そうですか。…しかし、すごいですね。『私の命を奪って構いません』だなどと。自分の命あっての人生でしょうに。人生の楽しみは、生きていればこそでしょう」

 悪意はなく、何の気なしに発せられたであろう彼の言葉──『生きていればこそ』──が脳に突き刺さるように感じられ、オーベルシュタインは、彼らしくもなく暫く言葉を失った。「いえ、もちろん、実に立派な志だと思いますよ?」と愛想よくフォローを入れるフェルナー大佐の言葉にも、返す言葉を見つけられない。

 結局のところ、ここで私が自らの命と引き換えに人々を救ったとしても、大した意味はない。軽薄なロマンチズム程度にしかならないのだ。極端な話、救った翌日にその人々は死ぬかもしれない。
 変えたければ、復讐したければ、狂ったこの国を破壊したければ、生き延びて、私の人生でもって、成すべきことを成さねばならないのである。

『生きていればこそ』ゴールデンバウム王朝を滅ぼせるのだ。

 ふと、会話の途中に黙り込んでしまったことに思い至り、オーベルシュタインはフェルナー大佐の様子を確認した。フェルナー大佐は既に自分を見てはおらず、こわばった笑みを浮かべて正面を向いている。
 …いかんな。会話の途中で考え込んでしまうのは、私の悪い癖だ。思えば、ラーベナルト夫人に何度も注意を受けた。

『坊っちゃん。人とのお話は、お互い喋り合うことが大事なのですよ。なにも、難しいことを言おうとか、意味のあることを言おうとかしなくていいのです。キャッチボールをするみたいに、話す・聞くを交互に続けるんです』

「……生きているだけで」
「はい?」
「ただ、生きているだけで…命があるというだけで、本当に生きていると言えるのでしょうか」
「……??」
「やりたいことをせず、言いたいことを言わず、ただ、生きている……私にはそれを、本当の意味で生きているとは思えない」
「…………」

 うむ。話す内容が良くない。夫人が聞いたら嘆きそうだ。どうも、雑談は苦手だな。ミュッケンベルガーを使えない以上、人脈を広げて他の候補を探すためにも、こうした技術を身につけておかねばなるまい。
 ──ああ、そうか。しまった。これではまるで、門閥貴族に従い、生き長らえている彼を批判しているようではないか。

 帝国軍では、平民兵士の命はゴミ同然に扱われる。安全な後方勤務には、貴族出身者ばかりが宛てられ、危険な前線には、徴兵された平民兵士たちが強制的に送り込まれる。そして、実力のない貴族出身の将官たちが指揮をとり、彼らの血を湯水のように流すのだ。
『自分の命あっての人生』と彼が考えるのも無理からぬこと。彼は、そのように無為に殺されていった兵士たちを間近に見てきたはず。
 裁量権を何ら与えられず、訳が分からないまま明日死ぬかもしれない日々を過ごしてきた者に、『志が低い』『自己中心的だ』などと非難する者が居るとすれば、それは、この宇宙で最も無知で愚かな者であろう。

 さて、何を言うべきか……。

『誤解は早く解いておいたほうがよろしいですわ。気分が悪いままお別れになってしまっては、お互いタメになりませんからね。……そうそう、それと、相手の良い所を見つけられましたら、すぐにお伝えするといいですわ。褒められて嫌な気分になる人なんて居ませんもの』

「貴官の生き方を否定するわけではありません。きっと私が、生まれついて十分な衣食住を与えられ、働かなくとも生きていける『貴族』という身分に生まれたから、そのように思う…という面もあるのでしょう。
 私は今の『大佐』の地位に就くために、なんら苦労をしませんでした。しかし貴官は、数々の苦難を乗り越えてきたことでしょう。きっと、命を落としかけるような苦難を、何度も。貴官は、『今も生きている』という一点だけにおいても十分尊敬に値する」

 フェルナー大佐の様子を窺うと、困惑した様子でこちらを見ている。…褒め方が大仰すぎたか、それとも皮肉と受け取られたか。
 オーベルシュタインはもう少しだけ話を続けてみた。

「しかし私は、なすべきことを成し、言うべきことを言えなければ、自分が本当に生きているとは思えないのです。たとえ、その為に死ぬのだとしても」

 フェルナー大佐は無言のままであった。

 これ以上、余計な事を言わぬようにするとしよう。オーベルシュタインは正面に向き直り、ミュッケンベルガー元帥への報告について考えることにした。

──────────

「今日を境に見限りました」

「オーベルシュタイン。この男、使ってやれ」

 ニヤリと笑みを浮かべたその男を、オーベルシュタインは何処かで見た気がした。

 私を知る者が、私に笑いかけるとは思えない。多分、気の所為であろう。