ダークエルフパロ
人間ビッテン×エルフオベ
その2

 石炭のような艶やかな黒肌エルフの道連れを増やした傭兵兼冒険者の人間ビッテンフェルトには、それまで経験したことのない困難が立ちはだかることとなった。
 大きな街に入ろうとすると、検問で止められるようになったのである。門の兵士たちは「ダークエルフを街に入れるわけにはいかない」と怒鳴り、彼らを追い払うようになった。ビッテンフェルトは首を傾げ、「この黒いエルフは特別にこの辺りの人間にとって因縁深いのだろうか」と考えていた。
 ビッテンフェルトひとりだけなら入れてやると言う親切な街もあったが、ビッテンフェルトはこれを固辞した。言葉もよく通じない彼を郊外に置き去りにするなど絶対にいやだ。
 ビッテンフェルトは知らなかったが、ダークエルフと他の地上エルフには大きな違いがあった。
 まず、ダークエルフと地上エルフの間には古い因縁がある。両者の戦争の末、ダークエルフたちは地下に追いやられており、地上に出てくることはほとんどない。出てくるときは大抵、彼らの信奉する邪神の教えに従い、地上エルフの村に夜襲をかけて根絶やしにするときだけだ。
 そうした背景もあり、ダークエルフは、邪悪な生き物の中でも特に恐ろしい敵として地上の民に認知されていた。人間の主な敵であるゴブリンやオーク、巨人などをダークエルフは従わせて奴隷として使役する。彼らの使う強力な魔術の数々、何よりも残忍極まりない性格は悪魔にすら一目を置かせるものだった。
 なお、パウルは特に教養高いダークエルフであり、彼らにとってマイナー言語である地上語も少し学んでいた。ゴブリン語は奴隷を扱う上で必要だったため、実はゴブリン語のほうが上手く話せる。
 交渉してどうにか買い物だけでもさせてもらい、物資を補充しながら彼らは野宿を続けていたが、パウルは野宿に慣れていないようで、地面に寝袋を敷いて寝なければならないことが負担であるようだった。
「おれの上で寝るか?」と試しにビッテンフェルトが申し出てみると、パウルはしぶしぶ乗っかった。筋肉のマットレスは地面よりはマシだったようで、パウルは元気に目覚めるようになった。小柄で軽い細身のエルフは、ビッテンフェルトにとっても厚手のブランケットのようで、さしたる負担にならなかった。
 いくつかの街に門前払いを受け、小さな村で彼らはようやく宿屋に入ることができた。
「珍しい色のエルフだな」と宿屋の主人は言った。
「だろう。パウルって名前だ。あんまりおれたちの言葉を話せないから、話す時は身振り手振りもしてやってくれ」
 と、ビッテンフェルトは応じた。
 シャワーの使い方を教えるつもりでいたが、パウルはよく知っているらしかった。湯を浴びて旅の汚れをすっかり落としたダークエルフは、とびきりの笑顔を浮かべてビッテンフェルトに微笑んだ。
 ビッテンフェルトはドキリとした。
「よかったなあ。そうだよな、ずっと川の水やらで体を洗ってたもんなあ」
 心からそう応じる。
 きちんとした宿屋の暖かい食事をとったときも、パウルは嬉しそうに微笑んだ。
『どこか郊外でもいい、こいつと暮らせる家を買って暮らせないだろうか』
 ビッテンフェルトは考えた。街中では、ここまでに門前払いを受けた街のようにダークエルフを嫌がる人がいるだろう。だが、小さな村には仕事がない。街で働きながら郊外の片隅で静かに暮らせる家に住めれば、こいつも落ち着いて暮らせるはず。
 当初の旅の目的をすっかり忘れ、ビッテンフェルトはそう考え始めていた。もはや騎士という職にこだわるより、何でもよいからパウルと暮らしていける仕事をしようと考え始めていた。
 寝室に戻ると、パウルはビッテンフェルトに飛びついてきた。彼をベッドに横たわらせ、口付けを惜しみなく相手の顔全体に落とす。
 宿で貸し出された人間サイズの大きな部屋着をはだけさせ、その隙間にビッテンフェルトの手を差し入れさせる。ビッテンフェルトは自分が即座に反応する感覚を覚えた。
『抱いていい』
 言葉はないが、そう言われている気がした。据え膳を食べない理由はビッテンフェルトにはなかった。
 翌朝、日が昇る頃には、ビッテンフェルトの最優先目標は『パウルと暮らす家を確保すること』に固まっていた。

 パウルは、とびきり奴隷調教が上手いことに定評のあるダークエルフだった。

Ende