首絞めックスビテオベ

 細く、折れそうな白い首に、おそるおそる手をかける。いつも襟で隠れているからか、その手触りは柔らかく、滑らかだ。
(おれの首は、こんな感触ではないだろうが)
 その首に両手をかけ、ゆっくりと握り、締める。どくん、どくんと興奮した脈動が手に伝わってくる。
「う、……カハッ」
 相手が苦しげに呻く。しかし、自分の腕にかかった手は緩く、引き剥がそうとしている様子はない。
 彼の体内がギュウと締まった。ぞくり、と、ビッテンフェルトの背筋に快感が走る。
 相手の気道と、かの頭脳へ向かう動脈を少し圧迫したまま、緩く深く腰を前後させていく。奥を叩いてやると、相手からか細く高い悲鳴が小刻みに上がる。彼が仰け反り、律動に合わせてピクリ、ピクリと脚を震わせる。『通常』よりもずっと良い反応だった。
「も゛っと」
 かすれた声が要求した。ビッテンフェルトは、むう、と眉を寄せた。
 細い首は折れそうで、自分の筋力なら太い首も折れる。力加減に注意せねばならないのに、好きに言ってくれる。
 ならば、と、首の骨に負担をかけぬ角度で、ビッテンフェルトは力を入れて相手の首を締め上げた。
「ぁ……っ、……」
(……大丈夫なのだろうか)
 ビッテンフェルトが不安を覚える。しかし、オーベルシュタインの手は緩いままだ。「不味いと思ったら爪を立てろ」と言ってある。
 彼の顔が青くなっていく。口元から泡が漏れる。しかし、そのまま律動してやれば、噛みちぎらんばかりの勢いでビッテンフェルトに体内が食いついてくる。
 まだ手は緩い。ビッテンフェルトは、自分もこの際、快楽に身を委ねることにした。何度も痙攣する相手に腰を激しく打ち付け、自身も高みに昇る。
 頂点に着き、すべて吐き出し、ビッテンフェルトは余韻にうっとりと浸った。
 ふうと息をひとつつき、はたと相手を見下ろす。
 オーベルシュタインの青い顔は、さらに蒼白になっていて――視線は明後日を向き、手もだらりと下がっていた。
 ビッテンフェルトがヒュッと息を飲み、彼の細面も青白くなった。
「オーベルシュタイン?」
 相手を揺さぶる。反応がない。
「オーベルシュタイン!!」
 より激しく揺する。反応がない。
「おい!! 冗談ではないぞ!!」
 すっかり夜の営み気分が吹き飛んだビッテンフェルトは、相手の脈や呼吸の確認に入った。止まってはいないが、弱い。
 彼は、救命手順を記憶の底から必死に思い出した。素っ裸のまま相手の気道を確保、口を開けさせ、肺いっぱいに空気を吸い込み、力強く吹き込む。三度吹き込んだ所で、オーベルシュタインがゲホゲホとむせた。
 彼の義眼が動き、自分の目をとらえる。二、三度、まばたきもあった。
「オーベルシュタイン?」
「……うえっ、げほっ……ビッテン、フェルト、」
 意識が戻ったとわかり、ビッテンフェルトはほうっと息を吐いた。それから、相手の頬をピシャリと叩く。
「いた」
「馬鹿者っ!! 『不味い』と思ったら爪を立てろと!! 云ったろうが!! こっちの寿命がちぢんだわ!!」
 オーベルシュタインが、叩かれた頬を撫でる。色素が薄いせいか、そこは赤く色づいていた。
「すまん」
「まったく! だから嫌だと云ったのだ!」
 憤然とするビッテンフェルトとは対照的に、オーベルシュタインは薄く笑みを浮かべていた。
「つい夢中になってな。卿が相手なので出来る遊びだ。仕損じるかも知れんと思っていたら、私も頼まぬよ」
 むぐ、とビッテンフェルトが呻く。顔はしかめたままだったが、嬉しそうなオーラは隠せていなかった。
「……よいか。おれが力を入れすぎればな、卿の首程度、簡単に折れてしまうのだ。ちゃんと知らせんと、どうなるか分からんぞ!」
「ああ。気をつける」
 オーベルシュタインは頷いた。

 そして、まんまと『また次回もやる』ことにされたのに、ビッテンフェルトは後で気づいて呻くのであった。

***

(気になる……気になるが、閣下が自覚していないとは思えんし、野暮だろうな……だが、気になる……)
 襟に隠しきれていない首のアザをチラチラと見つつ、フェルナーは思っていた。
 そうしていることにも、オーベルシュタインは気づいているだろうと思っていた。意味深に髪をかきあげ、首筋をよく見えるようにすらしてくる。
 しかし、何も説明はなかった。
(気になる……)
 いっそ、聞いてくれというフリなのか、それとも、承知しているから何も言うなということなのか、フェルナーは悶々と考えていた。