殺人鬼のフェルナーとオーベルシュタインの話
その5

 要人ばかりを狙って殺す切り裂き魔の話題が、首都星オーディンのメディアを騒がせるようになってきた、ある日。それによって軍務省が忙しくなる、ということもなく、フェルナーはいつも通り退屈に業務をこなしていた。

 今日は、そろそろ終わるかというタイミングで軍務尚書から追加の仕事を渡され、彼の退勤は遅れることとなった。せめて尚書閣下と帰り際の対面くらいは頂戴してもよかろうと、フェルナーは処理済みの書類を持ち、軍務尚書執務室へ足を運んだ。インターホンのボタンを押すと、応答画面にはグスマン少将が現れた。フェルナーの整った顔に若干の失望の色がよぎったが、彼はすぐにそれを隠した。

「フェルナー准将です。尚書閣下へ書類をお渡ししに伺いました」
「ご苦労。尚書閣下なら、先程帰宅された。代わりに私が預かろう」
「…帰られた?あの尚書閣下が?…グスマン閣下より先に、ですか?」
「ああ。なんでも、今日は大事な用があるとかで。…何か、尚書閣下に用事があったのかね」
「…いえ。では、書類をお預かり願います」

 数秒後、執務室の扉が開き、フェルナーは中でグスマン少将に書類を手渡した。サッと敬礼を済ませ、フェルナーは用のなくなった執務室の外へと出ていった。

 ……ああ、畜生。苛々する。

 フェルナーは銀髪の頭を苛立たしげに振り、顔をしかめながら、自らも帰路につくべく通路をずんずんと歩んでいった。

──────────

 その夜、官舎へ着いたフェルナーは、自宅の扉のレバーハンドル型ドアノブに手をかけた瞬間、違和感を覚えた。

 平民出身の彼は、将官級の軍人となった今でも自宅に従卒や使用人を入れておらず、掃除や自炊を自分で行っていた。そして、自宅に誰かが無断で入ったらすぐにそれとわかるよう、玄関の扉のノブをほんの少しだけ下げてから外出している。扉から招かれざる客が入っていないことを確認するための、簡易チェッカーである。帰宅の際には扉を開く前にノブを持ち上げることで、上がれば誰も扉から入っていない、と確認できるのだ。
 この日、ノブは上がらなかった。誰かが、いる?

 フェルナーは腰のホルスターからフェイザーを取り出し、室内に照準を合わせながら、ゆっくりと音を立てぬよう扉を開いた。玄関口には、見たところ誰もいない。中の様子を観察すると、居間から明かりが洩れているのが見て取れた。
 フェルナーは注意深くフェイザーを構えながら、一歩一歩、なるべく音を立てないよう進んでいった。やがて、居間へ続く曲がり角まで辿り着き、通路の壁に背を当てて張り付くと、彼は頭だけを居間に覗かせた。
 そこに居たのは、軍務尚書オーベルシュタイン元帥だった。退勤後すぐにここへ来たのか、軍服を纏ったまま、まるで我が家に居るかのように堂々とリビング・チェアに腰掛けている。脚を組んでゆったりと椅子に背を預け、何やら本まで持ち込んで読んでいた。
 フェルナーは驚きに目を見開きながら銃を下ろし、居間に入ってオーベルシュタインの前に姿をみせた。

「閣下!?」
「…ん。フェルナー准将。遅かったな」

 悪びれる様子もみせず、オーベルシュタインは本のページから目を上げ、家主の驚く声に応じた。更には、すぐに本へと視線を戻し、しおりを挟んで鞄に戻してすらみせる。
 人の家に無断で入っておいて、この余裕…。腹を立てる気にもなれず、フェルナーは苦笑を洩らした。

「……これは、これは。妙なところでお会いしますね、閣下。つましい我が家へようこそ」
「不躾な訪問となったことは詫びよう。従卒か誰かが居るものと思っていた」
「身分卑しい生まれのせいか、他人に家をいじられるのはどうにも性に合わないもので。ところで、今宵は何故、小官は閣下のご訪問を賜ったのでしょうか」
「話をしにきた」
「話…ですか」

 フェルナーは、敬愛する上司が不意に訪ねてきてくれたことへの喜びと、彼がここへ来た理由に対する不安が同時に胸の内にひしめくのを感じた。

 『ドライアイスの剣』閣下が、これほど唐突に、おれの家まで直接乗り込んできて話したいこととは、なんだ?

 フェルナーには、心当たりが1つしか浮かばなかった──とうとう、バレたのだ。『お前が何をしていたか知っている』──そう、話しにきたのだろう。フェルナーは無意識に、自分の身体の、愛用のナイフを隠した場所に手を触れた。
 ここで軍務尚書を殺害したとしても、何の得にもならない。彼が何の準備もせずにここへ来たとも思えないし、万一そうでなかったとしても、軍務尚書がこの家の合鍵を借りたことは、しっかり記録に残っていることだろう。
 知られたのならば、もう逃げられない。だが──愛しの尚書閣下の"最期"を、冥土の土産に頂戴していくことはできるかもしれない。不用心なのか、自信の表れなのか、軍務尚書は見たところ丸腰でそこにいるようだった。彼は確か、白兵戦は不得手だったはず。やれる。自分になら──
 フェルナーは覚悟を決めると、常の大胆不敵で自信に満ちた笑みを浮かべた。

「では、お飲み物のご用意をしましょう。コーヒーでよろしいですか?」
「うむ」
「砂糖とクリームは?」
「いらぬ」
「承知しました」

 フェルナーはキッチンへ向かい、軍務尚書が最期に口にするものになるかもしれないコーヒーの用意をはじめた。毒の用意もないことはないが、そんな無粋なやり方は、軍務尚書の最期を飾るには相応しくない。何かの催しで頂いた、自分が持つものの中で一番よい品のカップとソーサーの組を2脚、引っ張り出し、丁寧に洗って水気をとり、並べた。豆のほうは、普段彼が飲むものしか準備しておらず、これといって良い物を出せないことが悔やまれた。
 フェルナーがコーヒーを2つ載せた盆を持って居間に戻ると、軍務尚書はいささかも緊張した様子をみせず、変わらず堂々とそこに座っていた。さすがだ、とフェルナーはコーヒーをオーベルシュタインの前に差し出しながら考えた。自分に殺されるなどとは露ほども考えていないのか、実は死なぬ算段を整えてあるのか、それとも、死など恐れていないのか…。
 フェルナーが自分の分のコーヒーを置き、自らも席に着いたことを確認すると、オーベルシュタインは口を開いた。

「2つほど、聞きたいことがある。まずは、これについて、だ」

 そう言うと、オーベルシュタインは自身の懐に手を入れ、何かを取り出した。

 それは、黒い革のカバーがついた、ごくありきたりな手帳、だった。

 フェルナーは軍務尚書の手にあるものを見て、翡翠の目を見開き驚愕した。慌てて自分が犠牲者のリストとして使っている手帳──肌身離さず持っている黒革の手帳を探して、自身の身体をまさぐった。すると、いつも通りの場所に手応えを感じた。それを取り出し、表裏、そして中身を確認する。間違いなく、自分の手帳だった。
 フェルナーは自分の持つ手帳から目を上げ、オーベルシュタインの手にあるほうの手帳をみやった。オーベルシュタインは、彼の手にある手帳の表紙をぶら下げるようにつまみ、中身のページをフェルナーへ向け、パラパラパラ、とめくってみせた。
 中には、何も書かれていなかった。軍務尚書が取り出してみせたものは、新品の、同じブランドの手帳に過ぎなかった。
 してやられた。フェルナーは思わず、自嘲的な笑いを洩らした。

「そちらの手帳の中身を見せてもらおう」

 ただの新品の手帳をテーブルの上に置くと、軍務尚書はフェルナーの手にある手帳を指してそう言った。諦めたような笑みを浮かべ、否やもなくフェルナーはすんなりと手帳を手渡した。
 オーベルシュタインは手帳を受け取ると、中を開き、横線を引かれた無数の犠牲者と、まだ線が引かれていない未来の犠牲者のリストを眺めた。しばし、じっくりと検分したのち、やがて納得したとばかりに頷くと、その手帳を彼が用意した新品の隣に置いた。

「よくわかった。近頃、旧体制派の要人を消していた犯人は、卿で間違いないな」
「…………はい」
「そして、卿が以前言ったとおり、これは私への厚意だと?」
「……ええ」
「ほう。そうか」

 フェルナーの返事を聞くと、軍務尚書はいまいちど頷いた。

「では、2つめの用件だが」
「…なんでしょう、閣下?」

 答えながら、フェルナーは目立たぬよう自然に、ナイフを仕込んだあたりに手を伸ばした。
 
 自分の厚意は、運良く上司の意に沿っていたときは『有能な部下の気が利いた行い』となり、そこそこ報いられる。だが、そうでなかったときは。前回、そうでなかったときは…上司が別の人間であり、厚意が受け入れられなかったとき、自分はどのように扱われたか。その結果は、彼の脳裏にあまりにも鮮やかに刻み込まれていた。
 もしも、この軍務尚書が、自分に対して、前回の上司と同じ処遇をするつもりならば?…そうだな。それも、仕方のないことだ。前回と同じように、飄々と、何でもないふうに受け入れ、笑って見せるしかないだろう。
 だが──そのときは、彼にも前の上司と同じ運命を辿っていただこう。毒もワインも使わず、おれ好みに…より派手な演出で彩られた運命を。
 フェルナーのこわばっていた表情が、ふっ、と和らぎ、代わって笑みが彼の顔に広がった。その仮面じたいは、目の前の上官にもよく見せてきたものである。だが、彼の翠の瞳には、その上官へ向けたことのない、狂気にみちた光が差し込んでいた。そこへ映る、彼の愛しの軍務尚書が口を開いた。

「卿は、副官を外されたことを酷く不満に感じているらしい、と聞いた。もしそれが事実であれば、理由を聞かせてほしい」

 ……………。
 ………んん?

「……閣下?」
「なんだ」
「…その…閣下は小官が殺人を犯していると、確認されましたよね」
「ああ」
「…何も、その…処罰をするとか…なさらないのですか」
「されたいのか?」
「そんなことはございませんけれども」
「ふむ。ばれれば処罰を受ける、と考えていたのか。それでいて、これだけの数の人間に手を下しているとは、卿は奇異な真似をする」
「…おっしゃる通りでございますが…その……小官を、見逃すのですか?」
「…頻度と、やり方を多少…それと、人選への口出しをきいてくれるのであれば、私が卿を排除する理由はない」

 大胆に言ってのける軍務尚書の言葉を聞き、フェルナーはこわばっていた身体の力が抜け……笑いが込み上げてくるのを感じた。上官を目の前に失礼だとは思いつつ、たまらず、腹を抱えて笑い出してしまった。
 ああ、おかしい。おかしい。そうか。そういえば、こういう人だったか。まったく、まともじゃあない。イカれてる。最高の上司だ。
 フェルナーは、笑いすぎて呼吸すらままならなくなりつつも、目を上げて軍務尚書の顔を見た。オーベルシュタイン元帥は、つられて笑うでも、呆れた顔をするでもなく、至って平時の無表情のままでいた。
 この人が、愛おしい。

「ふふっ…あははっ、閣下…大好きですよ」

 フェルナーは不意に心からの想いを告げた。彼の瞳に最早狂気はなく、代わって暖かさに満ちた光が宿っている。すると、そのとき初めてオーベルシュタインが微かに驚いたかのような顔をみせた。その変化にフェルナーも驚き、止まらなかった笑いが不意にやんだ。
 
「…閣下?いま…驚かれました?」
「……ああ。…あまりに、稀な反応だったので」
「稀、といいますと…」
「………私を好いているだなどと」

 そう言うと、軍務尚書が──どれ程苛烈な悪意を向けられても悠然と受けて立ち、決して相手から顔を背けることのなかった彼が──驚くべきことに、居心地悪そうに目を伏せた。初めて見るその様子に、フェルナーは一層驚愕した。
 この人は、他人に向けられる悪意にとんでもなく強い。だが…好意を向けられることには、これほど慣れていなかったのか。フェルナーは、思わず顔がほころんでしまうのを感じた。常に作り笑いの仮面を被っている彼には珍しい、本当の、心からの笑みが溢れる。

「ええ、閣下。貴方が好きです。もちろん、頻度も、やり方も、人選も、貴方の御意があれば何でも従いましょう。上官だからではございません。貴方が、オーベルシュタイン閣下だからです。だから、何でもして差し上げたいのです」

 フェルナーがそう語ると、オーベルシュタインは目を上げ、彼の目を見返した。ごく僅かにではあるが、どこか、困惑したような表情をしているように思われた。

「…なぜ私に、そこまでのことを思える?」
「閣下が好きだからです。閣下の生き方が、振る舞いが、決然と歩む、後ろ姿が…小官は…おれは、大好きなのです。貴方から何も返ってこなくとも、構わない。貴方の副官となり、傍に仕え、貴方の後ろに在れる…それだけで良かった。……何も、返ってこなくとも……よかったはず、だったのですが……」

 不意に、心からの喜びを浮かべていたフェルナーの表情が陰り始める。明るかった声のトーンは、急激に暗くなっていった。

「……ですが…小官の立場を…貴方の後ろを、誰かに譲りたくはなかったのです。…おかしいですよね、何でも出来るはずなのに。何も返ってこなくとも、よかったはず…なのに…」

 フェルナーの整った顔が、悲しみに歪んでいく。

「閣下………小官は、閣下にとって…いくらでも替えのきく存在でしか、ないのでしょうか…」

 悲痛に満ちた声で、絞り出すようにフェルナーはそう告げた。目の前のコーヒーに視線を落とし、黒い液体の中に浮かんだ自身の顔を見つめる。彼は自分の容姿に絶大な自信を抱いていたが、そのときカップの中に映った自身の顔は、『まったく酷い面をしている』と感じられた。……自分は今、想い人を目の前にしているというのに。

 オーベルシュタインにとって、彼の部下の述懐は到底信じがたいものだった。だが、あらゆる人間を疑い、鋭い猜疑心の刃を向け続けてきた彼にすら、今、目の前にいる銀髪の男が、単に演技をしているとは結論づけることができなかった。
 しばしの沈黙の後、オーベルシュタインは口を開いた。

「私にとって…か…。…きかんだろうな」

 それが、オーベルシュタインの出した結論だった。自分の言をきき、よく整えられた癖毛の銀髪と翡翠の目、形の良い目鼻立ちの顔、さらには陸戦部隊として活躍できる恵まれた身体も併せ持つ部下が、弾かれたように目を上げた。大きく開かれた翠の瞳が、涙で僅かに光っている。
 ……そんな顔をするほど心を乱し、自分など選んで好意を向けずとも、彼なら誰の愛情でもほしいままにできそうなものだが。そんな思いをよぎらせつつ、オーベルシュタインは言葉を続けた。

「知っていると思うが…私の下で長く保った部下は、卿が初めてだ。…私は苦手だ。他人と“上手くやる”のは。かつては、それでも良かった。
 だが、ローエングラム陣営の参謀を預かり、総参謀長となり、陣営の規模が大きくなるにつれ、そうも言っていられなくなった。私が目的を果たすためには…王朝を変えるに足る組織を作り、支えるためには…好かれんでも一向に構わん。しかし、私の部下で居続けられる者が必要になった。
 弱らせているつもりはない。それでも、私の下についた者たちはみな、徐々に弱っていく。卿だけは違った。弱るどころか、私の前でも強気に発言し、自信ありげに笑みすら浮かべてみせる。そして、私の傍に残っている。…私はようやく、先へ進むことができるようになった。
 いくら銀河が広いとはいえ、卿のような者に二度と出会えると思うほど、私は楽観的ではない。…替えなど、きかぬ」

 そう述べると、彼は自身の言を強調するように、軽く首を振ってみせた。
 彼が居なくなっても、組織が突然倒れるということはないだろう。軍務省にしろ、銀河帝国にしろ、副官ひとり居なくなった程度で倒れる組織では脆弱にすぎる。組織にとってみれば、大抵の人間は他の人間で替えがきく。いや、きくべきなのだ。彼も、自分も、そして皇帝ですらも、かけがえがないということはない。自分にもしものことがあれば、他の幕僚が替わればいいことだし、皇帝も、とりあえずは血統による後継者が居てくれれば、その者で替えられる。
 だが…自分の傍にいて、弱らない部下。自分の傍に望んで留まり、更には自分を好きですらあるという、今なお暗殺癖が抜けない、実に風変わりな男。自分にとっての彼の替えが見つかるとは、到底思えなかった。

「しかし、時には、卿が倒れることもあるだろう。あるいは、卿が私の元を去ることもあり得る。そのとき、代わりの副官が必要だ。……どうしても、副官の任になければ不満かね。代わりに卿に報いられるものはないか」

 そう提案する頃には、副官の翡翠の目から悲しみの色が消え、常の表情に近い、少しいたずらっぽいような笑みが浮かんでいるのが見て取れた。

「…ふふ、何でもよろしいのですか?…そうですね…では、キスでも頂戴できますか、と言ったら、どうなさいます?」

「なんて」と冗談めかしてフェルナーがのたまうと、軍務尚書はすっと立ち上がった。長身が照明を遮り、フェルナーの上に暗い影を落とす。ぎょっとしたフェルナーは、自身も椅子から立ち上がり、身体をこわばらせながら後ずさった。怒らせたか、と思いつつ、軍務尚書の顔色を見ようと目をこらした。

 彼の血の気の薄い色の顔が、間近に近づいてきた。

 薄い唇が軽く、ついばむように自分の唇に触れ、そして離れた。たっぷり数分ばかり、フェルナーは何が起こったのか理解できなかった。ようやく理解が追いついた頃には、顔を離して、両手を後ろで組んで背筋を伸ばし、義眼の視線をこちらへじっと向け、軍務尚書は彼の反応を伺っていた。だが、フェルナーは意識的には何も反応することができなかった。代わりに、彼の色白で健康的な色の顔がみるみる紅潮していった。

「………え……?……え…い、ま……え…?」

 すっかり動揺したフェルナーが言葉を詰まらせているのをみて、オーベルシュタインが口を開いた。

「不満だったのかね」
「…いえ……いえ……あの…最高です…」
「そうか。…卿は何でもするというわりに、無欲だな。私の家で飼っている犬など、何をするでもないのに、よく煮て柔らかくした鶏肉を毎日要求するがね」
「えっと…でしたら、その…その、一緒に、飲みに行ったり…とか…してくださいますか?」
「…飲みに?…私と?……行きたいのかね?」
「あっ、その、お嫌でしたら別に…!」
「いや。構わぬ」

 オーベルシュタインは、部下に頷いてみせた。

「では、行こう。今日は遅いゆえ、また今度にな」

 その言葉を聞いたフェルナーは、オーベルシュタインが初めて見る、とてつもなく嬉しそうな、喜びにみちた表情をみせた。

 そんなことがそれほど嬉しいのか。まったくこの男は、どうかしている。だが…不思議と、悪い気はしない。そう、帝国の憎悪を一身に担うかの如く生きる、義眼の軍務尚書は感じた。